常行堂(重要文化財)に籠って

「動植物画家として、孔雀を求め、ここ(=常行堂)にたどり着きました」。常行堂は、世界遺産である日光山輪王寺の中にある重要文化財のお堂。今回、特別に許可を得て、お堂の中で制作をー。日本で唯一つとなる「宝冠阿弥陀如来像」を観想しながら制作した様子を記す。<記事=野澤>

堂内には5羽の孔雀の上に阿弥陀如来と四菩薩の像が安置

制作に至った経緯は、俳優・宝田明との最期の会話から。昨年の3月初旬、宝田明氏が主演となる映画のお披露目会のために控室に。彼と絵の仕事の打合せの筈だったが、世間話に花が咲いていた。この数日後、彼は他界。「輪王寺での撮影の話をずっとしてくれたんです。宝田さんは名も知らないような私に絵の仕事をくれた恩人で。とても温かい人で、ショックが大きくて、それでどうしても気になっていて。

温かくなってから輪王寺に行ってみたんです。孔雀のことは実はその時に知って。孔雀は子どもの頃からずっと描いているモチーフだから、常行堂の孔雀さんも描いてみたいって思いました。常行堂の孔雀は仏教的な意味合いを沢山背負っているので資料の読み込みは時間を掛けました。曼荼羅の勉強会も連日行ってみたり、取り掛かりまでに準備で一か月くらい掛かりました」

執着しない制作スタイル

umi.は、母親の影響で美術学科の高校で沖縄の伝統工芸・紅型染めの美しさに感銘を受け、地元の芸術学部で染織専攻を修了。以降、動植物を彩った”天国へ向かう魂の解放図”や少女の絵を制作。

2016年の作品『banbi』

都内での美術展入賞等をきっかけに、より自由な作品創りを研究し、作風は様々となっていった。故に自身を「doodle(=いたずら描き)」とも称している。基本的にはアクリルをベースとした、工芸の友禅染めやネイルの技術を利用したミックスアートを主なスタイルとしている。

左から『ひとやすみ』、『シャリのアルパカ』、『SPOOKY-morning roar-』

動植物への強い関心や絵の道は、すべては母の影響であり、身近なものから得たものがそのままumi.の生き方や作品や活動に活きている。umi.の普段の生活が全て絵の着想となり、彼女の中でとてもいい加減に広がっていく。息を吸うように生み出されてくる彼女の世界を垣間見るとつい吹き出してしまう人も多い。

一筋縄ではいかなかった制作

お堂入りしてから、孔雀作品の制作作業は丸一週間以上続けられた。「気取りがあったのだと思う」制作から数日後、制作中の絵に描かれた孔雀たちの目を潰し始めた。「ごめんね」と呟きながら埋め込まれていく孔雀たち。制作中は仮眠を少し取る程度、疲労困憊の中、それでもキャンバスは新しいものに変えて挑んだ。

輪王寺の 鈴木常元 教化部長と

「"神様仏様というのは、少しだけ意地悪なんですよね"と輪王寺の方が微笑みながら話しかけてくれて、それが救いになりました。描き上げることばかりに目がいっていて、過程を無視していたことに気が付いて、順番通りにやろうって」